したことないことをしよう

 したことないことをしよう。大人になるとしたことないことが減っていく。減っていくと同時並行的にしたことのないことを避けようとする気持ちも出てくる。その結果、ますますしたことないことをしなくなる。

 なじみの店、なじみの人、なじみの仕事場、それはそれで素敵だが、既知の世界で小さくまとまってしまう気がしないではない。ここ数年顕著なのは、見る映画のジャンルが狭まったことだ。ジャンルばかりでなく、名作と言われるものばかり見て「はずれ」を避けるようになった気がする。油断すると、ゴッドファーザーを見て、ファイトクラブを見て、ダラスバイヤーズクラブを見て(以下繰り返し)...ということになる。するともうそこにはインディペンデンスデイ:リサージェンスみたいなド腐れ映画に触れる時間は残されていない。あの映画はもう2度と見ないし、作った人間の正気を疑いもするが、少なくともあれを見に行ったから「これは失敗だったな」と思えたわけだ。したことないことを避け始めるというのは、失敗を避け始めるということだ。自分の中にそういう傾向を認めたので、避けてきたことをやったり、やったことないことをしなければならないという思いを強くした。

 やったことないことをやるのは不安なので、その不安も込みで、したことないことをしたことについて書いていきたい。